CIO (Chief Information Officer)、日本語で「最高情報責任者」とは、企業における情報や情報技術に関する上位の役員。
デジタル時代では、新サービスの投入や改善スピードを業界の垣根を超えた他社と争うことになる (ex. イオン vs Amazon、自動車さん号 vs Goole) ため、多くの事業分野でITの重要性が増し、従来のコスト削減や業務改善ツールを超えた根本的ケイパビリティとして再認識され、設置が進んでいる。
目次
CIOの概要
所属する企業によって業務管掌や役割は様々だが、基本的には経営戦略に沿ったIT投資や企業組織が利用する情報システム全体の戦略策定と執行に責任を持つ。情報化社会の進展にともなって社内ITインフラの高度化やSaaSの普及、クラウドコンピューティングの活用といったIT領域の重要性が高まったことに伴い設置されることが増えてきたと言われる。
スキルとしては、情報処理やソフトウェアエンジニアリング、情報セキュリティなどに関する高度な知見に加え、投資予算管理や組織運営といった経営についての知識・経験が求められる。また、情報システム戦略は企業に所属する全社員に影響を及ぼす広範な領域であるため、高いコミュニケーション能力や調整力も必要となる。
にはCIOが統括すべき領域として「ITマネジメント」「ITビジネス創出」「ITリスク」の3つが存在する。
CIO領域①「ITマネジメント」
経営陣と協調し、デジタル戦略・IT戦略を中心となって立案する。
また、企業競争力の最大化、ROI最大化を目指した適切なコストアロケーションを主導し、それらの実行部隊であるIT組織を組成し運営形態を決めて動かしていく。
また、デジタル時代に求められる自律的に動ける人材を確保、育成しそれらの人材が活躍できるよう組織の価値観を見直し必要に応じて企業風土改革までを手掛ける。
これらの計画・推進にあたっては、急速なデジタル化が進む背景を前提とした企業ビジョンの策定という超上流からの革新すら求められる。
ITマネジメントの対象領域としては、社内人材に加えアウトソーシング先の最適化も含む「ITリソースマネジメント」、社内システムの高度化や刷新も含む「ITアーキテクチャマネジメント」、社内既存データの活用や収集戦略を包括する「データマネジメント」、IT投資とそのリターンを管理する「IT投資マネジメント」などが含まれる。
CIO領域②「ITビジネス創出」
CIOには、自社事業の付加価値創出、業務改革、組織能力強化といった既存のリソース・戦略マネジメントに加え、ITを活用した新たな事業分野の創出を推進することが求められる。
そのためには、社内の知見を活かしビジネスを創出する「アイデアマネジメント」や、社外の知見を活かした「オープンイノベーション」による外部シーズの取り込み、それらをビジネスに昇華する「PoC (概念実証)」などのプロセスが必要となる。
この領域を推進していくにあたっては、自社の既存ビジネスドメインに関する知識に加え、不確定な要件に対して動的に開発リソースをマネジメントする「アジャイル開発」や、概念実証やニーズ検証をプロダクト開発に内包する「リーンスタートアップ」、顧客コンタクトポイントを上流・下流まで視野に入れてサービスを開発する「UXデザイン」、など多くの知識と経験が必要となる。
CIOはこれらの技術に精通するデジタル人材と、自社事業の知見が豊富な既存リソースを組み合わせ、自社の強みを活かしながらデジタル時代の「機会」をマネタイズしていくことが求められる。
CIO領域③「ITリスクマネジメント」
CIOにとって、情報セキュリティ対策は最も重要なテーマのひとつである。
サイバー攻撃や情報流出などのインシデントは、実害に加え企業信用力の毀損による株価の下落、顧客離れ、投資資金の引き上げといった経営に対する致命的な問題を引き起こす。
CIOはBIA (事業インパクト分析) などを用いて社内情報セキュリティのリスクを正しく測定し、セキュリティ組織を組成し、ROIを考慮しながら経営計画に織り込んでいかなければならない。過剰なセキュリティ投資や古く冗長なセキュリティ投資はコストが高くビジネスの足かせになりかねないため、最新のテクノロジーをコストパフォーマンス高く組み込んでいく情報感度も必要となる。
準備だけではなく、セキュリティインシデントが発生した際の初動計画 (ERP、Emergency Response Plan) 、危機管理計画 (Crisis Management Plan)、事業継続計画 (BCP、Business Continuity Plan) を策定し、SIRT (セキュリティ・インシデント・レスポンス・チーム) や社内の危機管理広報チームと共に対応にあたることも必要である。
CIOの年収
国内CIOで最高となるのは役員クラスで年収5000万円と言われている (出典 : 東洋経済、CIO/CTOの年収)。また、CIOの平均年収は2,500万円と言われており、中国の4390万円、マレーシア4140万円、香港4130万円と4000万円台なのに対して低い水準になっている (出典 : ヘイズ・スペシャリスト・リクルートメント・ジャパン)。
デジタル人材の需要は年々増えており、人材不足と相まって上昇傾向にあると言われているが、国際的には低い水準にある。
IT業界のエグゼクティブ採用に詳しいエージェントへのヒアリングによると、未上場やベンチャーCIOでは800万円〜1,500万円程度だという (当社調べ)。企業規模や管掌領域によってばらつきは大きいとのこと。
CIOと情報システム部長の違い
日本国内では、情報システム部門のトップがCIOを兼ねることも多いと言われている。
前述のようにCIOの干渉領域は広いが、情報システム部門との最大の違いは以下の3点である。
CIOは経営陣としてより大きな権限が与えられている
CIO職は経営陣や執行役員として設置・募集されることが多く、社内の間接部門である情報システム部門のトップより上位の役職であることが多い。
ミッションも全社・グループ全体に及ぶ広範なテーマを与えられており、経営者と一体になって経営戦略を担う大きな責任と権限が与えられている。
CIOは「攻めのIT」と「守り」のITの両方を担う
日本は情報システムをコスト削減や効率化の「ツール」と捉えているため、情報システム部門は業績拡大や新規ビジネスドメイン開拓のような「攻め」の部門ではなく、情報漏えいやセキュリティリスクから会社を守り、間接部門の効率化を図る「守り」の組織であるという認識がなされている。
実態としても、社内に強力なITチームを持っている組織は少なく、システム関連はIT子会社や外部ベンダーに丸投げされており、本社はそのマネジメントを行うというケースが多い (出典 : デジタルビジネス・イノベーションセンター) 。
CIOも情報セキュリティ戦略や外部ベンダーマネジメントを行うが、売上や利益につながる「攻めのIT」も含めてよりアグレッシブなKPIが与えられている。
CIOのキャリアパス
CIOは、前述の通り広範な業務管掌を持つため、「CIOにはこういったキャリアパスが必要だ」とか「このスキルを持っていればCIOになれる」という単純なものはない。
CIOには「IT」と「ビジネス」の両方について高い知識と経験が求められるため、まずはそのどちらかを極め、キャリアの途中で足りない部分を補足するといったマルチキャリア的な発想が必要になるだろう。
米国CIOのキャリアパス
現に米国では、ロー・スクールで技術に強い弁護士を養成するためのエリートコースとしてJD/PhDコースを設置しており、卒業生は理工系分野の博士号(工学博士又は理学博士)と法務博士の両方を取得し、CIOとなるとされている (出典 : wikipedia)。
相対的に立場の低いCIO
近年重要視されるようになってきたCIOという職種だが、日本企業での立場は他の重役と比較して低いと言われている。経営トップへのルートとして有名な銀行系でも、CIOの段階では執行役員止まりであり、それを卒業すると、たいてい取締役になる(CIOからは外れる)という。
これからのCIOに求められるスキル
CIOにとって従来は業務とシステムの両方の知識が必要だったが、これからの時代はそれらに加えてAIに関するリテラシが重要になってくるといわれている。
- AIに対する正しい理解 (単なるアルゴリズム・Machine Learning ・Deep Learningなどを混同しない)
- AIで何ができるかをイメージでき、それが自社のどんな領域に適用できそうかを自らの知見で判断できる
- 英語による外国人エンジニアのマネジメント (部下(特にエンジニア)が外国人になっていくので)
一口に「AI」といっても、例えば契約書整理のRPAでは画像認識部分にはDL、テキスト化したデータの類型化にはルールベースのアルゴリズム、集まったデータによる未来予測や経営改善にはML、というように異なるAI技術が使われている。
現場のスタッフであればふわっとした理解でも問題ないかもしれないが、予算を預かり意思決定とROIを求められるCIOには正確で深い知識が求められ時代になると言われている。
「日本のCIO」と「米国CIO」の違い
2018年に経済産業省が発表したDXレポートでは日米CIO における行動スタンスの違いについてまとめている。その指摘は厳しいものとなっており、これが事実であれば国内CIOは機能不全に陥っているといえる。
米国のCIO
- ベンダー企業を客観的に評価できることが重要な責務
- 役に立つベンダー企業はどこかと常に探している
- 知名度やブランドにとらわれず、結果を出せるかどうかで選定する
- 開発を主導するのが CIO の責務であり、結果も CIO 責任という考え方が定着している
日本のCIO
- ベンダー企業に全てを委託するのでユーザー企業側のCIOには蓄積されたノウハウがない
- CIO ・経営陣いずれも「有名な大手に頼んだから大丈夫」と考える
- 開発企業の選定を行わず、これまで付き合いのある企業からの提案をそのまま受け入れる
- トラブルが起きるとCIOではなくベンダー企業の責任となる
CIO人材の例
元メルカリCIO 長谷川 秀樹
https://shareboss.net/p/boss/hideki-hasegawa/
長谷川 秀樹は、ロケスタ株式会社の代表取締役社長であり、元株式会社メルカリの執行役員CIO(最高情報責任者)。
アクセンチュア株式会社 出身であり、国内外の小売業の業務改革、コスト削減、マーケティング支援などに従事した。
その経験を活かし、東急ハンズでは、情報システム部門、物流部門、通販事業の責任者として改革を実施。デジタルマーケティング領域では、ソーシャルメディアを推進。その後、オムニチャネル推進の責任者となり、東急ハンズアプリでは次世代のお買い物体験への変革を推進した。
現在は複数社のCIOを兼務し、支援している。外資系、伝統的企業、ベンチャーの3種類の企業の文化、仕事のやり方の経験からアドバイスができる。
CIO業務全般を得意としており、ホワイトカラーの生産性向上、小売業・流通業全般のデジタルトランスフォーメーション、業務改善、コスト削減、新規事業立ち上げなどの領域で実績がある。
カーチスHD 非常勤CIO 坂本 俊輔
https://shareboss.net/p/boss/shunsuke-sakamoto/
坂本俊輔は、株式会社グローバル・パートナーズ・テクノロジーの代表取締役社長でITストラテジスト。東京大学卒、エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社 出身。
事業ビジョンに基づくシステム企画や構想策定、業務改革、業務要件定義、システム導入におけるユーザーサイドのプロジェクトマネジメントを専門領域とする。
2019年9月、「コンサルタントが、より事業にコミットした働き方をしていくこと」「事業会社内のIT人材が、より幅広い企業に対してバリューを提供すること」を目指し、CIOシェアリング協議会を設立。同協議会の設立をきっかけに、株式会社カーチスホールディングスの非常勤CIOに就任した。
CIO人材の採用
エグゼクティブエージェントやヘッドハントを使うのが一般的だろう。ただし、非常に需要が高く候補人材が希少なため、高額な募集をかけても何年も採用できない、といった声も聞かれる。
CIOは、前述の通り広範な業務管掌を持つため、必要人材のJDを定義するのも、採用の目利きをするのも非常に難しい。規模や業種、企業のデジタル化の進捗度合い、文化等によって適切な人材は異なるため、可能性ある多くの人材に触れることで適切な人材を見極めたい。
また、社内の有望人材をCIOとして登用し、シェアボスのようなサービスを使って不足するスキルを外部人材で補ったり、教育させるのも有効だ。
シェアボス
シェアボスでは、CIO経験者やCIO候補となる人材を週1回からおよそ50%コミットまでアサインできる。
以下に、システムに精通したシェアボス人材を紹介する。
CIO人材の選び方
これからのCIO人材は、先に上げたような業務知識・システム知識・AIなど先端技術に関する知見を有することに加え、「攻めのIT投資」を指揮できるような積極性が求められる。
IT投資における日米比較では、日本のIT 関連費用のうち 8 割以上が既存システムの運用・保守に充てられていると言われており、将来の収益やシェア拡大につながる投資が行われていない点が問題視されている。
40%以上の企業では、IT予算の90%が現行ビジネスの維持・運用に当てられており、将来的な投資には10%以下しか割けていないのが現状である。
日本企業がIT投資を行わない状況は2013年から2017年までの間で大きく改善されたが、それでも2013年時点での米国に比べて大きく劣っており、国際競争力を維持する上で大きな影響を及ぼしていると考えられる。
日本のCIOは、単なるシステムの保守・メンテナンス責任者ではなく、企業競争力を高める投資戦略を担う人物を選定するべきだろう。
CIOに関する書籍
CIOや、これからCIOを目指す方に有用と思われる書籍を何冊か紹介する。CIOの業務は非常に広範なため、1冊にまとめられているものは総論的な内容となり個々のテーマ (例えば社内システムやデータ活用、セキュリティ) についてはさらっとした説明になっている。
そのため、これらの書籍で全体像を掴み、深堀りしたい領域をマスターするため更に専門書を探す、という流れがよいと思う。
国内発の書籍は組織やパートナー間の人間関係に配慮した情緒的なものが多い。一方、海外書籍はフレームワークやステップ論で合理的に抽象化されたされている、という印象だ。
好みや用途に応じて選んでほしい。
CIOハンドブック 改定5版
基本となる1冊。CIO業務に関する大枠がまとめられています。ほとんどが日本企業の実情に即しているので、日本企業にお勤めの方は役立つはず。
網羅的な内容で、おおざっくりと書いてあるが、具体的な内容までは踏み込んでいないため、実践で使うにはそれぞれの領域に関する専門書を必要に応じて買い足す必要があるだろう。
DX実行戦略
ある程度フレームワーク化されたDX本。
経営幹部教育で世界的に有名なスイスのビジネススクールIMDとシスコが共同で設立したDXの先端研究拠点「DBT (デジタルビジネストランスフォーメーションセンター) がまとめている。
実行のステップが記述うされているため、レガシーな社内体制を実際にデジタルトランスフォーメーションしたい、と考える経営者やCIOに有用な内容だろう。グローバル企業のノウハウから作られたものだが、巻末にある「デジタルディスラプション診断」、「リソースの能力評価ワークシート」、「虎の巻」等はカスタマイズして日本企業でも使うことができる。
ただし、巻末でデジタルイノベーションセンター副代表の西野氏が述べている通り、日本企業独特の「社内外にはびこる強力なタテ社会構造」「上司や目の前の仕事しか見られない日本人ビジネスマンのメンタリティ」「ソフトウェアを軽視する文化」など課題や障壁は多い。
これらを突破する強力なリーダーシップとサポート人材なしに、日本企業のDXはおぼつかないだろう。
デジタルトランスフォーメーション / DXの衝撃
「守り」ではなく「攻めのIT事例集」と言った内容。
ANA、デンソー、ピーチ、日本交通、関西電力などのデジタル化事例がキーマンへの取材を元に公開されている。
使い方は社内で上申する際の他社事例だろうか。ただし、それぞれの情報についてネットリサーチでもある程度情報収集できる内容のため、そこそこ詳しい情報がまとめて読みたい人が会社経費で買う本だと思う。
また、DXについて「具体的にどんなことなの」という触りから知りたい方の、入門書的な位置づけかもしれない。
デジタルトランスフォーメーションの実際
ベイカレント・コンサルティング著。
同社のコンサルタントが日本企業のDXに携わる中で経験したと思われる様々なケーススタディを元に、DXの3ステップを提案している。
ステップ1. デジタルパッチ
既存のビジネスモデルを前提に、販売チャネルやオペレーションなどの個別領域へ部分的にデジタル適用を図っていくフェーズ。業務効率化や運用コストの最適化を図ることができるが、これだけでは競合他社と差別化することはできない。
ステップ2. デジタルインテグレーション
デジタルによって個別最適化した領域を統合し、既存ビジネスの高度化と統合図っていくフェーズ。
顧客向けにCX (カスタマー・エクスペリエンス) の最適化を図り、一方ではITを前提としたBPRを行い業務を抜本的に改革する。複数の販売チャネルやグループ間、またはバリューチェーン横断的なデータ統合を行う。
ステップ3. デジタルトランスフォーメーション
デジタルを前提とした新しいビジネスモデルへの転換と、それにともなう組織構造の抜本的改革。
・・・といった具合である。
フレームワーク自体は、先の「DX実行戦略」に比べるとまだ抽象的でふわっとしたものだ。しかし、実際に日本企業のDXに携わっているコンサルタントでしかわからない現場の苦悩や葛藤が生々しく、これから実際に行おうとする人たちの心の準備として有用だろうと考える。また、実際にDXを進めている現場の人々には「あるある〜」と共感でき、楽しめる部分が多いのではないかと推察する。
後述する「データレバレッジ経営 デジタルトランスフォーメーションの現実解」は本書の続編的位置づけであるが、CIOが統括する領域やDXの総論よりはデータ活用にフォーカスを当てているため、読者を選ぶのではないかと考える。
このような書籍は、経営者のような立場にこそ読み、現場をエンパワーするべくマネジメントに活かしてほしい。
データレバレッジ経営 デジタルトランスフォーメーションの現実解
前述の「デジタルトランスフォーメーションの実際」に続くベイカレント・コンサルティングの著書。デジタルトランスフォーメーションの総論からデータにフォーカスを当てた各論へとシフトし、深堀りしている。
本書では「何か出てくるかもしれないからとりあえずデータを分析してみよう」「いつか使うかもしれないからとりあえずデータをおこう」というような恣意的なデータ活用にいそしむ日本企業を「データ神話に踊らされる」として正面からぶった切り、目的を達成して初めてデータの価値があるというスタンスからそのTODOを事例に基づいて示している。
内容はGAFAやアリババ・テンセント、国内企業の取り組み紹介、データとは何かという概要や分類方法、阻止金論と続くがどれも内容は表面的。
日本企業の現状に警鐘を鳴らした上で「活用の際はベイカレントまでご相談ください」という体裁であり、同社や競合他社への発注を検討しているCIOが営業資料やRFIの下地として読む分には有用だろう。
ストーリーで学ぶデジタルシフトの真髄
現場と取り組むデジタル先進企業の挑戦秘話
三井住友ファイナンス&リースという実在の大企業 (当時はGEキャピタル・SMFLキャピタル) が、月2万〜3万件も届く膨大なFAX書類と、それらをオペレーターが手入力する作業をRPAとAIを活用してデジタル化するまでを描いたドキュメンタリー (?)。
部門間の連携とその軋轢、新人・若手の活躍、試行錯誤のプロセスがリアルに描かれている。
物語のスタートが2014年〜2018年ということもあり、技術的には2019年現在であればもっとよい解決方法があるかもしれない。だが、本書で描かれているDXという目標にチームが一丸となり、部門の垣根を超えて社内にデジタルが広まっていく姿は同じ様な境遇のビジネスマンに勇気を与え、またこれからチャレンジする人々や支援する人々には一筋縄でいかない現実を垣間見せてくれるだろう。
Why Digital Matters? ~ “なぜ”デジタルなのか~
プレジデント社の「経営企画研究会」が前面に出ているが、監修にSAPジャパンの村田総一朗氏が入っており、SAPのフレームワーク等をベースとして展開されている。
同書によると、欧米はERP導入を前提とした「インダストリー3.0」を完了し、全ての産業がデジタル化する「インダストリー4.0」へのシフトを始めているが、日本企業は「インダストリー2.5」レベルにとどまっているという。
「デジタル」の対義語が「アナログ」だと考える人は多いが、ビジネスの文脈では「フィジカル」である。フィジカルな領域で埋められないニーズやギャップをデジタルで解決する、というアプローチがインダストリー4.0の本質にほかならない。スマート工場といった日本企業のIT化の取り組みを「カイゼンしか知らない日本勢」とし、IT活用の領域が効率化やコスト削減にとどまっていると課題を指摘する。
書籍の後半では、米GEのアプローチやドイツの事例、デザインシンキングなどのツール紹介を交えながら、旧態依然とした事業組織構造や自前主義のシステム開発からの脱却を謳っている。
SAPが監修を務めているだけに、SAP系パッケージ導入の汎用テンプレートといった様相は否めないが、日本人経営者が好む「海外先進事例から学ぶ経営のベストプラクティス」が豊富であり、社内決裁を通すベースとしてはSaaS導入全般に同書のロジックを利用できるだろう。
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