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製造業でDXが不可欠な理由
製造業は日本のGDPの約2割を占める基幹作業であり、新たなイノベーションを創出し、他産業への波及効果も高いことからその重要度は高い。一方で、グローバル化が進行し、コスト優位性が示しづらいハードウェアの製造や加工の領域で、日本企業が競争優位性を担保し続ける難易度が上がっていることも事実だ。生産技術・プロセスのデジタル化が求められる製造業を”DX”というキーワードを軸に、その進め方のポイント、及びトレンドを解説したい。
DXの前提整理、日本の製造業が抱える課題とは
製造業のDXを考える際に、まず日本の製造業が抱える中心的な課題を整理すると、以下のようなトピックが並ぶだろう。
- 不安定な経済環境
GDPや1人あたりGDP等の経済指標の伸び率が他の先進国と比べて相対的に劣位な状況、新型コロナウイルスや自然災害、不安定な金融市場、といった経済環境の上に日本の製造業は成り立っている。経済産業省が作成する『2020年版ものづくり白書』では、新型コロナウイルスの影響により、日本の製造業には世界各国の需要減少が直撃し、自動車等の国内生産拠点においても生産調整に入る例が相次いでいると指摘している。製造業においては
マクロな経済環境に左右されない経営の効率化、適切なサプライチェーン・マネジメントが強く求められる状況と言えるだろう。
- グローバル・サプライチェーンの寸断リスク
2000年に11.8%であった海外生産比率は2017年に25.4%まで上昇しており、直近のコロナウイルスの世界的な流行や、紛争、政治要因、工員の人権問題までリージョンリスクは多様かつ複雑に絡み合っている。IMF専務理事ゲオルギエバ氏の「不確実性は、新しい常態(ニュー・ノーマル)」という言葉が象徴的だが、これらの海外拠点のリスク顕在化を当たり前のものと捉え、サプライチェーンの再構築やIT技術を用いた強靭化が求められている。
- 労働力確保の難化
少子高齢化が進行し、労働力人口が加速度的に減少する国内事情もまた、日本の製造業の根本的な課題といえる。単純な人材不足も問題だが、少子化や採用の鈍化などが原因で技能継承が進まず、技術者の高齢化もまた課題になっている。女性の働きやすいさ改善、移民政策の最適化、若年層活用の促進など、政治から解決すべき事項も多いが、各企業においても、ITによる効率化や自動化、省人化、AIによる属人的技能のデジタル化など、進められる課題もまた多い。
- 設備投資への消極性
不安定な外部環境を背景に、日本の製造業の設備投資は決して積極的とは言えない状況が続いている。リーマンショック直前2008年の第3四半期に5.17兆円あった本邦製造業の設備投資額は、2010年第1四半期に2.99兆円で底を打ち、その後回復傾向であったが2019年以降は各四半期4.5兆円弱と横ばいで推移している。生産設備導入からの経過年数も長期化しており、設備/製造環境の老朽化は顕著だと言える。DX推進にあたって、デジタル化に乗じた攻めの投資にしろ、脅威への対応にしろ、実際に設備投資に回るコストを捻出する経営的な意思決定が必要なことは言うまでもないだろう。
- IT化の遅れ
日本と同じくGDPにおける製造業比率が20%近い製造業大国ドイツでは、2010年台初めから『インダストリー4.0(第四次産業革命)』と呼ばれる、製造業全体の“スマートファクトリー化”を目指すプロジェクトが始動しており、オートメーション化、データ化、コンピュータ化が促進されている。そこではAI、ビッグデータ、IoTなどの新たな技術が使用され、産官学一丸となって工業の近代化が進んでいる。
一方同じ”ものづくり国家”の日本は、このような改革に国家単位、企業単位の双方で後塵を拝している。上述の設備投資への消極性を背景に、属人的な改善による部分最適の積み上げに依存している部分も大きい。ベースとなる技術力や組織力を活かす抜本的なDX推進が必要になっている。
製造業のDXで実現できること
自動化・機会化・AI導入による効率化
製造オペレーションの中でデジタル化されていない、”一定のルールに基づいて処理される業務”を、網羅的にオートメーション化することで、コストダウン・リードタイムの短縮・省人化を進めることは製造業のDXの基本と言えるだろう。また省力化はトレンドワードであるカーボンニュートラルにも繋がり、SDGsの観点からも重要な変革と考えられる。
また、5Gに象徴される先端通信技術やロボット活用によるスマートファクトリー化やリモート化が促進され、土地活用やワークスペースの効率化が進んだり、職人のトレーニングの遠隔化などノウハウのデジタル化も同時に進展できるだろう。
製造現場と各チェーンの連携強化
製造業おける”エンジニアリングチェーン”(企画研究ー製品設計ー工程設計ー生産などの連鎖)と、”サプライチェーン”( 受発注ー生産管理ー生産ー流通・販売の連鎖である)の各工程のデータが、結合されていないケースが日本の製造業において多く見られる。営業が吸い上げた顧客情報が企画や研究・製造に活かしきれていないケースや、各工程が使用するデジタルツールの設計の共通化が進んでおらずデータが集約されていないケースなど、製造に関わる部門間の連携が不十分な現状の解決また、製造業DXの改革スコープと言えるだろう。
また、この連携強化の行く先の好例として、FA部品や工具を扱うミスミの製造業的”プラットフォーム化”の事例がある。ミスミ社は3DCADデータをアップロードするだけで見積もり・発注ができるプラットフォームを提供し、2D図面作成や見積もりのリードタイムを削減する価値を生んでいる。受注現場と製造現場が一気通貫でデータ連携されていることがこのシステムの前提になっている。
DXによる顧客体験・ビジネスモデルの最適化
エンジニアリングチェーンやサプライチェーンで共通化したデータマネジメントが行われ、集約されたデータに対して、AI処理・シミュレーションをかけることで生産効率が向上するだけでなく、マンパワーでは生まれなかった顧客への価値提供が実現できる可能性がある。
例えば、小松製作所が提供する機械稼働管理システム(KOMTRAX)は、建設機械にIoTセンサを取り付けることによって機械の位置情報・稼働状況・故障情報・燃料/部品の消費情報等のデータを取得し、点検・修理サービスのクオリティ向上に繋げたり、収集したデータを解析し、燃費向上に繋がる情報を顧客に提供することもできる。この事例はまさに、製品を作るだけではなく、その製品を活用したサービスを提供する”製造業のサービス化”の優秀な事例と言えるだろう。
このようにDXの本質は、既存のアナログ業務の単なるデジタル化ではなく、目まぐるしい外部環境の変化にITの力で対応し、ビジネス自体を変革する取り組みだと言える。最終的に顧客や社会にDX改革を通して提供する価値をいかに定義するかがポイントと言えるだろう。
製造業DXを進める上でのポイント
製造業でDXを進める際のポイントを以下で整理するので、参考にしていただきたい。
経営層によるDXビジョンの提示
経産省が発表している『DX推進ガイドライン』でも、その冒頭で”経営戦略・ビジョンの提示”の重要性が記されているように、製造業のDXにおいても、全社的な視点でDXで吟味され、それらがメンバーレベルまで浸透していることが重要だと言える。
業務プロセスの整理、スコープの定義
自社の既存のIT資産、サプライチェーン、エンジニアリングチェーン、を見える化することが製造業DXの初期段階において重要になる。どこにリスクがあり、どの要素の競争優位性を伸ばすことが経営インパクトとして多きいのか整理する基礎的なフェーズといえるだろう。
DXプロジェクトの体制構築
製造業のDXはハードウェアや複雑なサプライチェーンが絡むことが想定され、大規模化するケースが多いだろう。経営層のコミットが強い直轄組織や部門横断のプロジェクトとしてDXを推進することが望まれる。
また社内向きには、DXプロジェクトを通じた”現場力”及び”エンゲージメント強化”に繋がるプロジェクト設計が好ましいだろう。ただでさえ日本の製造現場の技術力低下が懸念され、実際「製造エンジニアリング技術」等の水準を競技する『技能五輪国際大会』における日本の順位は近年低下している状況に鑑みても、製造業のDXを単なる省人化と考えることは中長期視点で危険だろう。製造現場のエンゲージメント指数が先進各国と比べて低い現状も同時に考慮し、熟練技術者と若手エース人材が共存できる体制を意識的に構築する必要がある
製造業DXの成功には、”DXプロジェクト経験者のアサイン有無”もまた重要なポイントになる。プロ人材の採用かコンサル導入、技術顧問等の手助け無しでは成功ハードルが高いプロジェクトになると想定できるだろう。
データ活用基盤の整備
前述のような経営観点でのDXビジョンや、製造現場の課題整理ができても尚、それらに関連するデータ(情報)が共通化されておらず、現場のモノとの対応関係が不明瞭な状態ではPoC(概念実証)も進まない。CIO(最高情報責任者)のような情報資産管理のプロが中心になり、ブラックボックスを解消し、マイクロサービス化等の選択肢を多角的に検討する必要があるだろう。
製造業DX化の相談に、シェアボスという選択肢
ここまで述べたような製造業のDXについてノウハウを持つ人物は、伝手を使って探したり、エグゼクティブマッチングサービス/ヘッドハントを使って探す方法が考えられるが、そもそも対象となる人材の母数が小さいため、なかなか希望にあった人材が見つかる・マッチングすることは難しい。
そこでおすすめなのがシェアボスである。シェアボスはハイレベルなDXプロジェクト経験者を月2回からアサインできるため、採用より早くて確実だと言える。また、実務経験者が揃っていることも特徴で、シェアボスの経験豊富なプロ人材に製造業DXの人材教育を任せるという手段もある。一回のアドバイスが15万円からとリーズナブルで、無料相談も可能なのでぜひ一度ご検討いただきたい。